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アメリカ医療の基礎知識 
:医療制度について

アメリカの医療の仕組み

日本人の方々にわかりにくいと思われるアメリカの医療のしくみについて、一般にはあまり知られていない実際をご紹介します。

1) アメリカの医療保険の基本は民間保険

アメリカには日本のような国民皆保険といった医療保障制度はありません。多くのアメリカ人は、雇用主が補償するあるいは個人で購入する民間医療保険に加入しています。高齢者と障害者に対してはメデイケア(MEDICARE)、低所得者に対してはメデイケイド(MEDCAID、カリフォルニア州ではMEDICAL)と呼ばれる公的医療保障制度があります。一方、公的医療保障の対象とはならず、しかも民間の保険も購入できない無保険者がアメリカの総人口の約15%もおり、しかも最近の民間医療保険の保険料(PREMIUM)の高騰に伴いこの無保険者の割合もさらに増加していて、大きな社会的問題になっています。

2) マネージドケアとは?

マネージドケアとは、医療コストを減らすために、医療へのアクセスおよび医療サービスの内容を制限する制度です。従来からの出来高支払い制では、医師が医療の内容を決定していましたが、医療費の高騰を抑えきれず、医療保険料の高騰と保険加入者の減少という悪循環をもたらしました。その結果として登場したのがマネージドケアという新しい制度であり、保険会社が医療の内容の決定権を持ち、医療を管理するようになりました。ここでは、医師の意見はあくまで参考であり、医療の内容の最終決定をするのは保険会社(ビジネスマン)であり医師ではありません。患者さんが病気になって医療を受ける時は、今までのように自分で医師や医療施設を選ぶことができず、保険会社が指定した医師にかからなければなりません。ここで指定されるのは一般内科医あるいは家庭医であり、選ばれた医師はプライマリケア医として初期治療にあたり、自分の力で診療可能と判断すればそのまま治療を続け、診療費の高い専門医に患者を送るのを出来る限り抑えようとします。このような厳しい制限を持つマネージドケアは、その後、必要十分な診療を提供できないという医師の苦情、あるいは満足な医療を受けられないという患者さんの不満など数々の不評を買い、その改善を早急に迫られています。

3) アメリカの開業医と病院との関係について

日本では診療所と病院それぞれに医師が存在し、一般に診療所は比較的簡易な医療をカバーし、病院は高度な医療をカバーすると理解されていますが、アメリカでは病院(HOSPITAL)はあくまで開業医自らが自分の患者さんを入院させ治療する場所です。開業医が自分の患者さんを病院に入院させる権利のことをHOSPITAL PRIVILEGEといい、これは一種の契約に当たります。開業医にとって病院とは、自分の患者さんのためにいろいろな検査や入院中の看護などを提供してくれる場所です。従って、開業医は自分の患者さんが入院している場合には、オフィスでの外来診療の合間をみて病院に出かけ、診療を行います。日本では風邪などの軽症の患者さんまでが大病院の外来を受診するため、病院の待合室はいつも大変混雑していますが、アメリカでは救急の場合を除けば、あくまで開業医が初期治療(プライマリケア)を担当し、病院への入院の必要性を判断しますので、この様な混雑はありません。

4) アメリカの病院の勤務医について

アメリカの病院には、いわゆる勤務医と呼ばれる立場の医師はあまりいません。従来、アメリカの病院の多くはオープンシステムになっており、診療を担当する医師の多くは病院組織の外部に位置しています。従って、勤務医として病院に雇用されているのは、放射線科医、病理医あるいはERと呼ばれる救急部(EMERGENCY ROOM)で働く救急医、レジデントと呼ばれる研修医(RESIDENT)などごくわずかです。ただしHMOに代表されるマネージドケアの普及に伴い、病院に勤務しそこで外来なども担当する勤務医なども増えてきています。カイザー病院がこれに相当します。

5) アメリカの診療所の設備について

日本では、小さな診療所でもレントゲン装置を持つなど、それなりの装備をしていることが多いのに比べて、アメリカの診療所(DOCTOR’S OFFICE)は単なる診察室しかない場合も多く、一般にシンプルにできています。これは、アメリカでは医療関連サービスの高度化により、医療行為の分業化が進んでおり、いろいろな検査が別の施設で行われるようになってきたためです。診療所はあくまで患者さんの診察をする場所で、レントゲン、CT、MRIなどの診断用検査は多くの場合、別の外来専門の施設や病院で行われます。アメリカの医師のオフィスは病院に近接したビルの中に所在していることが多く、複数の開業医が事務や看護スタッフを共有していることもあります。

6) プライマリケア医と専門医の連携について

プライマリケアとは初期医療の意味であり、アメリカ人は身体の不調があるとまず自分の主治医であるプライマリケア医に相談します。プライマリケア医は、別名ゲートキーパー医とも呼ばれ、患者さんを診察の上で、入院や専門医への受診が必要かどうかを判断します。専門医への受診は保険会社による支払いの増加につながるため、マネージドケアの普及によりプライマリケア医の需要が増えてきました。プライマリケアと専門医による診療の境界をどこに引くか曖昧ですが、一般にはプライマリケア医の良識的判断により、専門的な診療が必要とされた時に紹介(REFERRAL)がなされます。プライマリケア医にとって、信頼のできる専門医と連携することは重要なことです。

7) アメリカの病院の病床数について

アメリカでは、入院をせずに多くの医療が行われます。例えば近年、日帰り手術専門のセンターが増加しています。専門医は自分のオフィスで診察した患者の日帰り手術をこうしたセンターにて行います。この手術も入院ではなく、外来診療として取り扱われます。具体的に外来にて行われる手術には、扁桃腺摘出術、ヘルニア手術、腹腔鏡による胆嚢摘出術、白内障手術などが含まれます。これは、比較的簡単な手術の後も入院を続ける日本とは大きな違いです。
アメリカの病院の病床数は近年減少傾向にありますが、これはマネージドケアの普及に伴って医療費削減のため、入院日数の短縮化、外来手術の増加が計られているためです。アメリカの病院に患者さんを入院させますと、予想される一定の入院日数を超えると、保険会社から早期退院の要請が届き、担当医に圧力がかけられることもあります。

8) アメリカの医師の資質について

アメリカの医学校は、一般の4年制大学を卒業した後の大学院レベルの学校として存在します。大学での専攻は様々で、医学生の中には4年制大学を卒業した後に他の職業につき、いろいろな社会的経験を積んだ後に、新たに医学の道を目指したという学生も少なくありません。医学校入学の選抜は、大学での成績や、MCATと呼ばれる適正試験はもちろんのこと、その他にも学業とは無関係な課外活動や社会活動(ボランテイアなど)への参加歴、大学教員からの評価、同僚や上司からの評価、さらには複数の医学部スタッフとの面接試験なども重要な選考基準になります。従ってアメリカでは、必ずしも学業の成績が良ければ医学部に入学できるとは限りません。アメリカの医学生はその選考に当たってより全人格的な資質を問われることが多く、また医学部に入学後も医師としての使命、正義感、倫理観を徹底的に教育されます。これは私の印象ですが、一般的にアメリカでは日本に比べて、より人間味の豊かな医師の割合が多いような気がします。これは、医師という仕事を目指す学生のモチベーションの違い、あるいは日米両国の医学教育制度の違いが背景にあるのかもしれません。

Shuichi Kobayashi MD

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