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大人のための予防接種

Vaccine

日本とアメリカでは、予防接種の対象となる疾患や接種方法、タイミングなどばかりではなく、予防接種に対する考え方に違いがあります。日本では、予防接種は子供のワクチンが中心であり、大人が予防接種を受けるのは、女性に対する風疹ワクチンやインフルエンザワクチンなどの一部を除けば、感染が心配な海外旅行の時だけと考えている人が少なくありません。一方、アメリカでは、大人についても、本人のみならず、社会を各種の感染症の蔓延から守るために、積極的に予防接種を受けることが勧められています。一般に、アメリカの予防接種体制は日本よりも一歩進んでいます。アメリカに来て、その仕組みの違いに戸惑われる方も少なくありませんが、アメリカに長期滞在するからには、こちらで必要とされているワクチンは基本的に接種すべきです。アメリカの、大人のための予防接種のガイドラインについて、以下に個別に解説します。18才以下での予防接種については、その他のリソースをご参考ください。

1) 破傷風/ジフテリア(tetanus/diphtheria:Td):

破傷風は、破傷風菌が作る毒素によって引き起こされる病気です。全身のこわばりと、筋肉の痙攣が見られます。破傷風菌は土壌に広く生息し、アメリカでも毎年死者が出ており、近年のアメリカでの致死率は11%程度です。そのため、大人にも予防接種が勧められます。特に小さな子供のいる家庭では、土や動物に接することも多く、必須なものと考えられています。

小児期に3種混合ワクチン(ジフテリア/破傷風/百日咳:DTaP)として、基礎接種(primary series、3回投与)を受けていない場合、あるいはその接種歴が不明の場合、妊婦を含めて、Tdとして基礎接種(3回投与)を受けます。1回目と2回目は4週間以上あけ、3回目は6-12ヶ月後に投与します。基礎接種を終了した人は、追加抗原刺激(booster)のため、10年ごとにTdの投与が必要です。但し、10年経過すると抗毒素抗体が少なくなってしまう人もわずかながらいるので、受傷した時点で、最後の破傷風ワクチン接種から5年以上経過している場合には、外傷の初回診療時にTdの追加接種が考慮されます。小児に投与されるDTと、7才以上に投与されるTdとは内容が異なり、DTにはTdと比べて、8倍のジフテリアトキソイドが含まれています。

2) インフルエンザウィルス(influenza):

インフルエンザワクチンは、科学的な予防方法として世界的に認められています。流行性のインフルエンザは、大きくA型とB型とに分けられ(C型は非流行性)、A型はさらにウィルス表面に存在する2種の糖タンパク、hemagglutinin(H)とneuraminidase(N)の組み合わせにより、いくつかのサブタイプに分けられます。一般にインフルエンザワクチンは、3種のインフルエンザ株(Aが2種、Bが1種)が混合されています。例えば、2003-2004のシーズンのワクチンは、AからはH1N1とH3N2が選択されました。WHOでは世界から収集したインフルエンザの流行情報から次のシーズンの流行株を予測し、ワクチン株として適切なものを毎年世界各国にむけて推奨しています。但し、各国が前年度の流行状況などから独自にその株が選定するため、例えばアメリカと日本とではその内容が異なることがあります。

インフルエンザワクチンは、現在2種類あります。1つは昔からある不活化ワクチンで、筋肉注射により投与され、6ヶ月以上のすべての年齢層に投与可能です。もう一つは弱毒生ワクチンで(Live Attenuated Influenza Vaccine、LAIV)、経鼻スプレーにより投与され、現在は5才から49才の健康な人への接種が承認されています。いずれも年一回、インフルエンザ流行時期の前に投与されます。

The Advisory Committee on Immunization Practices(ACIP)が毎年、インフルエンザワクチンを受けるべき対象を勧告しています。最新の報告によれば、大人では、50才以上のすべての人、49才未満で以下に記した適応の人に接種が勧められています。もちろん、49才未満でも希望者には投与されます。

(1) 慢性疾患患者:喘息などの肺疾患、心臓病、糖尿病、慢性腎不全、ヘモグロビン異常症、HIVなどの免疫不全、前年度に入退院を繰り返した人、インフルエンザの流行時期に妊娠第2期、3期となる妊婦
(2) 職業上の適応:医療従事者
(3) Nursing homeやその他の長期療養施設の患者、ハイリスクの人に頻回に接触しインフルエンザをうつす危険のある人

3) 肺炎球菌(pneumococcal):

肺炎球菌により引き起こされる病気には、肺炎、髄膜炎、中耳炎、副鼻腔炎、菌血症(敗血症)などがあります。アメリカ合衆国では、年間約175000人が肺炎球菌による肺炎で入院すると推算されています。成人では、病院外で感染した肺炎(community-acquired)の36%が肺炎球菌によるものです。また、病院内で感染した肺炎(nosocominal)の50%が、肺炎球菌によるものです。インフルエンザや麻疹の合併症としても見られます。肺炎球菌による肺炎の致死率は、5-7%ですが、老人ではもっと高いと考えられています。

大人では、65才以上のすべての人、64才未満で以下に記した適応の人に接種が勧められています。一般には一回のみの投与ですが、慢性疾患患者の場合には5年後に一回の追加投与が必要です。慢性疾患を持たない65才以上の人でも、初回接種が64才未満でなされ、その後5年以上経過している場合には一回の追加投与が必要です。

(1) 慢性疾患患者:喘息などの肺疾患、心臓病、糖尿病、アルコール性肝疾患、慢性腎不全、ネフローゼ、脾臓機能不全、ヘモグロビン異常症、HIV、血液悪性腫瘍などの免疫不全、癌化学療法中、長期ステロイド内服者
(2) Nursing homeやその他の長期療養施設の患者

アメリカでは、老人の肺炎の予防が主目的となる第一世代のワクチン(pneumococcal polysaccharide vaccine、PPV)に留まらず、乳幼児の肺炎・髄膜炎・菌血症の予防のために投与される結合型ワクチン(pneumococcal conjugate vaccine、PCV)も用いられ始め、接種対象はさらに増加してきています。

4)B型肝炎ウィルス(hepatitis B):

以前は血液や注射針などを通じた感染が問題でしたが、現在はB型肝炎に感染している母親からの新生児期を中心とした感染と、思春期以降の性行為を通じた感染の二つが主な源です。3歳以下の乳幼児が感染すると慢性化することが多いため、生直後から予防接種をする国も増えてきました。成人の感染では通常慢性化はありませんが、黄疸などが重症化し死に至る劇症肝炎も1%程度にみられます。多くは非経口的に感染しますが、経口感染することもあります。

日本では医療従事者や母親がB型肝炎の子供などリスクの高い特定の人にしか予防接種を行いませんが、アメリカでは、大人では、年令に拘わらず、以下に記した適応の人に接種が勧められています。3回の投与が行われ、初回後、2回目は1-2ヶ月後に、3回目は6-12ヶ月後に接種されます。

(1) 慢性疾患患者:透析患者、血液製剤(凝固因子)受血者
(2) 医療従事者、血液に接触する機会のあるpublic safety従事者、医学生などの医療教育施設の学生
(3) drug user、複数の性的関係者のいる者、STD(性病)に最近罹った者、STDクリニックのすべての患者、男性の同性愛者
(4) 配偶者がB型肝炎ウィルスキャリアーである場合、mentally disabled施設の居住者、職員、B型肝炎ウィルスの蔓延する国に6ヶ月以上滞在する旅行者、矯正施設の入居者

5)A型肝炎ウィルス(hepatitis A):

A型肝炎は、アメリカでは、急性ウイルス性肝炎の第一位を占めます。アメリカでは、年間約3万人のA型肝炎の発生報告があります。一般に、水や食品を通じ経口的に感染しますが、1993年のアメリカでの調査によれば、A型肝炎の感染の原因としては、不明47%、A型肝炎に感染した人との接触22%、小児などの世話をするデイ-ケアでの感染の可能性17%、国際旅行6%、男性同性間の性行為5%、静脈注射での麻薬使用2%、食中毒あるいは水の汚染による発生の疑い2%、となっていました。不衛生な環境では非常に多い病気で、全身倦怠感や黄疸のため一月以上の休養も余儀なくされることもあります。但し死亡することはまれで、慢性化することも通常ありません。日本人では40歳以下では免疫がない人がほとんどです。

アメリカでは、大人では、年令に拘わらず、以下に記した適応の人に接種が勧められています。2回の投与が行われ、初回後、2回目は6-12ヶ月後に接種されます。

(1) 慢性疾患患者:血液凝固因子製剤受血者、慢性肝疾患s
(2) 男性の同性愛者、違法薬物の使用者
(3) A型肝炎ウィルスを扱う研究施設の従事者など
(4) A型肝炎ウィルスの蔓延する国への旅行者

A型肝炎とB型肝炎の混合ワクチンもあり、18才以上で投与が認可されており、この場合3回の投与が行われ、初回後、2回目は1ヶ月後、3回目は6ヶ月後に接種されます。

6)麻疹/ムンプス/風疹(measles/mumps/rubella:MMR):

日本では使用が中止されていますが、欧米を中心に小児の基本接種として世界的に広く安全に使われています。海外のものは日本で使用されていたものとは元になるウィルスの株が異なります。外国で使われているMMRは、以前日本で副反応が問題になったMMRとは異なる製品で、かなり安全度の高いワクチンとされています。

麻疹は小児にとってはもちろん、免疫のない大人でも、発病すれば高熱が1週間前後も続くだけではなく、肺炎、脳炎などの合併症の危険が高く、現在の医療をもっても死に至ることがある重症感染症です。アメリカでは,現在でも散発的に麻疹患者の発生がありますが、患者が外国から麻疹ウイルスを運びこんだ場合とその外国から運びこまれた麻疹ウイルスに感染した場合とが大部分と考えられています。日本もアメリカへの麻疹ウイルスの輸出国の一つとされています。アメリカには,宗教上あるいは信念上等の理由から予防接種を拒否する人たちもいて、外国から運びこまれた麻疹ウイルスによりそのような集団のなかで麻疹が流行する可能性は残っています。また,アメリカでは最近、麻疹患者の報告に占める大人の割合が増加しつつあり、麻疹が子供の病気とも言えない状況になりつつあります。

アメリカでは、1956年以前に生まれた人は、麻疹に対する免疫があると見なされます。1957年以降に生まれた人は、明らかな麻疹の既往がなく、MMRの接種歴が不明であれば、禁忌となる理由がない限り、MMRを少なくとも一回は投与すべきです。又、以下の場合に2回目のMMRが勧められています。追加することにより副作用の発生が高くなる危険性はありません。

(1) 麻疹患者と接触した場合
(2) 不活化ワクチンを投与された場合
(3) 1963年から1967年の間に、由来のはっきりしないワクチンを投与された場合
(4) post-secondary educational institutionの学生
(5) 医療施設での従事者
(6) 海外旅行者

ムンプスはいわゆる“おたふくかぜ”の原因ウィルスです。一回のMMRの接種で十分な免疫が得られると考えられています。2才から11才での感染が大部分です。ムンプスに対する免疫を持っていない大人が、家族がムンプスにかかった際などに罹ってしまうことがあります。思春期後の男性で最も多い合併症は、睾丸炎で、20-30%で起こります。患者の50%に睾丸の部分的な萎縮を認めますが、不妊に至ることはまれです。アメリカでは、宗教上あるいは信念上の理由で予防接種を拒否している人々の間での流行、最近ではラテンアメリカ生まれの労働者が多い職場での流行が見られます。

風疹ワクチンについて、ワクチン接種歴が不明な女性にはMMRを一回接種し、その後4週間は避妊するよう指導します。妊娠可能期の女性は、その出生年にかかわらず、免疫の有無を確認し、先天性風疹症候群(流産、死産および胎児の奇形発生など)についての指導を受ける必要があります。現在妊娠中であるか、あるいは4週間以内に妊娠を希望している場合には、ワクチンは禁忌です。もし妊娠中に免疫のないことがわかったら、出産後になるべく早急にワクチンを接種します。

7)水痘(varicella):

水痘はいわゆる“水ぼうそう”のことで、全身の発疹に、発熱、頭痛、気分不快などを伴いますが、一般にそれらの症状は子供に比べて、大人でより重症です。人から人への感染が容易に起こりやすく、家族の一員が水痘に感染した場合、家族内の水痘に感染したことがない人(水痘に対する免疫がない人)の約90%が感染すると言われています。

水痘の既往が明らかでない場合、あるいは免疫(抗体)の有無が不明である場合に、以下のようなリスクの高い人に勧められています。生後12か月から12歳までは,水痘ワクチンの1回の接種で97%で抗体値が上がるのに対して、13歳以上では、水痘ワクチンの1回の接種で78%、4-8週間隔での2回目の接種により99%で抗体値が上がります。このため、アメリカでは,13歳以上で初めて水痘ワクチンを受ける場合には,少なくとも4週間以上の間隔をあけて(4-8週)2回接種するよう勧められています。

(1) 医療従事者、免疫不全症患者の家族
(2) 感染の可能性の高い施設の従事者(教師、デイケア職員、大学生、矯正施設の入居者、職員、軍隊など)
(3) 小さな子供のいる家庭の青年、大人
(4) 将来、妊娠する可能性のある女性
(5) 免疫を持たない海外旅行者

現在妊娠中かあるいは4週間以内に妊娠を希望している場合には、ワクチンは禁忌です。もし妊娠中に免疫のないことがわかったら、出産後になるべく早急に接種します。

8)髄膜炎菌(meningococcal):

流行性髄膜炎(meningococcal meningitis)は、敗血症(septicemia)を合併し、急速に死に至る重症感染症です。髄膜炎菌は大きくA群、B群、C群、Y群、W-135群に分けられ、C群髄膜炎は近年ヨーロッパ、北アメリカ、オーストラリアで小流行が見られます。

髄膜炎菌ワクチンは日本にはありません。A、C、Y、W-135の4価多糖ワクチンです。大人では、年令にかかわらず、以下に記した適応の人に接種が勧められています。特にハイリスク地域に住む人は、3-5年後に追加接種を受けることが勧められています。

(1) 補体と呼ばれる免疫担当物質の先天的欠損、脾臓の機能異常
(2) 髄膜炎菌による流行性髄膜炎の蔓延する国への旅行者(髄膜炎ベルトと呼ばれるサハラ砂漠以南のアフリカ特にマリ東方からエチオピアにかけてのサバンナ地域、サウジアラビアのメッカ(W-135)など、特に12月から6月)

また、アメリカでは、大学に入学した際に、特に寮に入り集団生活をする学生は、流行性髄膜炎の予防接種につきカウンセリングを受け、希望により髄膜炎菌ワクチンを受けるよう指導されます。

Shuichi Kobayashi MD

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