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病気の早期発見のために

チェックアップ

「定期健康診断」が病気の早期発見とその進行の予防のために行われることは皆さんご存知の事と思います。実はこの病気の予防というのは具体的には3つの段階に分けられ定義されています。1次予防とよばれるのは、病気の発症予防や健康づくりのことです。2次予防は、病気の早期発見のことです。3次予防は病気の治療のことです。従来から日本で行われていた定期健康診断は、2次予防すなわち自覚症状がない早期から病気を発見することがその主な目的でした。

しかし、平成8年に厚生労働省が「成人病」という言葉の代わりに、「生活習慣病」という新しい言葉を用いるようになり、状況が変わりました。生活習慣病とは、食生活、運動習慣、休養、飲酒などの生活習慣(ライフスタイル)の乱れが発症、進行に関与する病気のことで、これ以降、日本での検診の目的は2次予防から1次予防へ、すなわち定期的な健康診断により、その人のリスク要因(危険因子)を評価し、その生活習慣を改善することにより病気を予防しようという考え方に変化しました。これは、従来よりライフスタイルの改善に重きを置いていたアメリカでの検診の考え方に近いものです。

ところが、この定期健康診断の実際の方法については、日本とアメリカで大きな違いがあります。日本では年に1回以上の健康診断が常識となっていますが、アメリカでは保険を利用しての健康診断はその適応範囲が非常に限られています。アメリカでは、病気の死亡率、年齢と発病の関連、検診の導入による具体的な生存率の増加、検診にかかる膨大な費用などの客観的なデータに基づき、主に効率性(cost-performance)の視点からスクリーニングの基準が決められています。年に1回の定期検診は一般の人々には必要ない、定期検診の費用は本人が負担しなければならない、胸部X線や心電図などのテストは定期的に行っても健康の増進には役立たない、などの勧告をしている医師会もあります。従ってアメリカでは、医師による診察、簡単な検査、年齢や性別で細かく定められたスクリーニングの項目を除けば、無症状な被験者に対しての定期的な健康診断は一般に医療上不必要な行為と見なされます。

アメリカでは、一般人に対してその年齢層ごとに、どういう健康管理(intervention)が必要か明確に定められています。1)疾病のスクリーニング(screening)、2)カウンセリング(substance use, diet and exercise, injury prevention, dental health, sexual behaviorの5点)、3)予防接種、4)chemoprophylaxis(補充療法など)の4項目について、具体的内容が定められています。これらの基準は、各研究班(task force)や各学会の勧告がその根拠になっており、その中でも特に1996年のU.S. Preventive Services Task Force (USPSTF)の報告が最も重要で、その内容はインターネットで見ることができます。その他にも、アメリカ癌学会(America Cancer Society、ACS)、アメリカ医学会(American Medical Association、AMA)などから、スクリーニングについての勧告が逐次なされています。例を挙げますと、USPSTFのリポートでは、なぜ、無症状の非喫煙者に肺癌の早期発見のための胸部X線検査や喀痰細胞診によるスクリーニングが必要ないかという、その科学的根拠が述べられています。

こうしたアメリカの基準を日本人にそのまま当てはめるのが危険なのは明らかです。なぜなら、日本とアメリカでは、地理的、人種的な体質の差異の他に、食生活、飲酒習慣、喫煙率など、生活習慣病の発症に深く関係するライフスタイルが大きく異なるからです。癌を例に挙げれば、現在の臓器別の癌死亡率は、日本の男性は、1位)肺癌、2位)胃癌、3位)肝臓癌、の順で、女性は、1位)胃癌、2位)大腸癌、3位)肺癌、と続きます。一方、アメリカでは、男性は、1位)前立腺癌、2位)大腸癌、3位)肺癌、となり、女性では、1位)乳癌、2位)卵巣癌、3位)子宮体癌、の順になっています。例えばアメリカに住んでいても日本食を中心に食事を摂る日本人には胃癌のスクリーニングが望ましいという印象を持っています。ただ実際にアメリカで重要視され、保険でカバーされるスクリーニングは前立腺癌や乳癌だというのも上記の統計から理解できると思います。

では、アメリカに住む日本人として、定期健康診断の機会が非常に限られている現状で、いろいろな生活習慣病を早期に発見するためには、どうしたらよいでしょうか。自己負担にて総合的な検診を受診する余裕のある方、あるいは会社で費用を負担してくれるという方は、日系の医療機関でいわゆる「人間ドック」と称する健康診断を受けるのもよいでしょう。ただしこの場合には、単にどれかを受診すればよいというわけではなく、その機関で提供される検査のクオリティー、結果判定者の経験と資質、等をしっかり見極める必要があります。また不幸にも異常が見つかった場合、そこでお終りではなく、病気の治療に向けての新たなスタート地点に立つわけですから、その後の対応や治療をしっかり任せられるところでなければ本末転倒となります。健康診断を受けること自体が目的なのではなく、それによって病気が見つかった場合に適切に対応し、その進行を予防することこそが重要なわけですから。

一方、総合的な定期検診を自己負担で受ける余裕のない方はどうすればいいでしょう。この場合には、患者さん自身が日常から積極的に自分の健康管理に努めることが重要です。生活習慣病は年齢、性別や家族歴などその患者さんの持つ内因的な背景の他に、ライフスタイルが発症に深く関係します。主な生活習慣病について、自分がその病気になりやすいリスク要因 (危険因子) を持っているかどうか、さらにその病気の初期症状は何かを普段から知っておくことが大切です。定期的に主治医の診察を受け、普段とは違う何かを自覚したら、すぐに相談しましょう。信頼できる主治医であれば、その患者さんの体質や病歴、家族歴など健康に関する全般を把握していますから、患者さんに異常が予測されれば、それを確かめるための検査をオーダーしてくれます。病気の早期発見に役立つでしょう。アメリカで健康に暮すためには、このようにかかりつけ医を賢く利用するのが良いと思われます。

Shuichi Kobayashi MD

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